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高松地方裁判所 昭和54年(行ウ)7号 判決

高松市寿町二丁目三番一号

原告

有限会社末沢旅館

右代表者代表取締役

末沢英一

同市楠上町一番四一号

被告

高松税務署長

三木光義

右指定代理人

下元敏晴

徳弘至孝

七条英夫

清水福夫

大麻義夫

中村隆保

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対して、昭和五三年八月二八日付でなした、昭和四八年二月一日から昭和四九年一月三一日までの事業年度分(以下、昭和四八年度分といい、他の事業年度についてもこれに準ずる。)、昭和四九年二月一日から昭和五〇年一月三一日までの事業年度分、昭和五〇年二月一日から昭和五一年一月三一日までの事業年度分、昭和五一年二月一日から昭和五二年一月三一日までの事業年度分及び昭和五二年五二年二月一日から昭和五三年一月三一日までの事業年度分についての各法人税更正処分は、いずれもこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(本案前の答弁)

主文同旨。

(本案に対する答弁)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は肩書地において旅館業を営む有限会社であり、被告に対し、昭和四八年度から昭和五二年度までの各事業所得申告をしたところ、被告は昭和五三年八月二八日これにつき、昭和四八年度分の事業所得一、〇四三万八、〇〇三円の申告に対し一、五二三万八、〇〇三円の、昭和四九年度分の事業所得五五四万五、九一四円の申告に対し六七九万二、二〇一円の、昭和五〇年度分の事業所得欠損三二万三、八八三円の申告に対し二七五万五、六〇〇円の、昭和五一年度分の事業所得零の申告に対し一六四万九、六三二円の、昭和五二年度分の事業所得欠損二九三万一、〇七七円の申告に対し欠損二四五万八、三九一円の、各更生処分(以下、これらを総称して本件各処分という。)をなした。

2(一)  原告は、昭和五三年一〇月一三日被告に対し、本件各処分につき異議の申立をしたが、被告は昭和五四年一月一三日これを棄却する旨の決定をし、右各異議決定書謄本は、同日原告方に送達され、原告代表者の妻末沢弘子が、これを受領した。

原告は、同年三月九日国税不服審判所長に対し、本件各処分につき審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、同年四月一六日右各審査請求を却下する旨の裁決をなし、右各裁決書謄本は同月一九日原告に送達された。

(二)  ところで、原告代表者は、旅館業界の慣例に従い、昭和五四年一月一一日から同年三月五日まで東京都板橋区高島平三丁目高島平団地一〇街区一〇号棟四〇三号室岩堀貞和方を本拠として東京周辺の旅行業者に挨拶廻りをしていて高松市の肩書住所にいなかったので、被告のした前記各異議決定がなされたことを原告代表者が知ったのは、同年三月六日であり、そのために国税通則法(以下、法という)七七条二項所定の一か月の期間内に審査請求をすることができなかったものである。

以上の事実によれば、原告代表者が右法定期間内に前記審査請求をしなかったことについては、同条三項の「やむを得ない理由」があったというべきである。

3  そして、本件各処分は原告の各事業所得を過大に認定した違法な処分であるから、その取消を求める。

二  被告の本案前の主張

1  本件訴えは、国税に関する法律に基づき税務署長がした処分の取消を求めるものであるから法七五条、一一五条一項本分、行政事件訴訟法八条一項ただし書の各規定により、異議申立についての決定及び審査請求についての裁決を経た後でなければ、提起することはできず、また、右決定及び裁決を経たというためには、異議申立及び審査請求が適法になされていることが必要である。

2  したがって原告が国税不服審判所長に対し審査請求をするのであれば、法七七条二項により右各異議決定書謄本の送達の日の翌日から起算して一か月以内になすべきであったところ、原告が昭和五四年一月一三日、右決定書謄本の送達を受けながら審査請求をしたのは、右法定期間経過後の同年三月九日であったことは、原告の主張自体に徴しても明らかであって、国税不服審判所長は、同年四月一六日、法九二条により右各審査請求を却下する旨の裁決をしたものである。

したがって、本件訴えは、適法な審査請求の前置を欠くものというほかなく、またかりに原告が主張する(一)、(二)の事情があったとしても、右事情は法七七条三項にいう「やむを得ない理由」とは認められないから本件訴えは、不適法として却下さるべきである。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1・2(一)の各事実は認める。

2  同2(二)の事実は不知。

3  同3の事実は争う。

第三証拠関係

一  原告

乙第一、第二号証の成立は認める。

二  被告

乙第一、第二号証

理由

一  原告代表者の妻末沢弘子が、昭和五四年一月一三日、本件各処分に対する各異議決定書謄本の送達を受けながら、原告が国税不服審判所長に対し、審査請求をしたのが法七七条二項所定の一か月の不服申立期間を経過した、同年三月九日であったことは、原告の主張に徴し明らかなところである。

原告は、右法定期間内に審査請求をしなかったことについては法七七条三項の「やむを得ない理由」があったと主張するが、ここに「やむを得ない理由」とは、災害、交通の途絶等、本人の責に帰すべからざる事由による法定期間内に不服申立をなし得なかったことを宥恕する事情と解するのが相当であり、原告主張の事実関係のもとでは、かりにそのような事実があったとしても、原告代表者及びその妻において、相互に連絡し合う等、日常生活において、通常必要とされる注意をもってすれば、原告代表者としては容易に右法定期間内に審査請求をなすことができる状態にあったと考えられるから、原告主張の右事情をもってしては、いまだ法七七条三項の「やむを得ない理由」とすることはできない。

そうすると、原告の右各審査請求は、法定期間を徒過してなされたものというほかはなく、したがって本件訴えは法一一五条に定める適法な審査請求前置の要件を欠くものというべきである。

二  よって、本件訴えは、本案につき判断をすすめるまでもなく不適法として却下することとし訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上明雄 裁判官 打越康雄 裁判官 田中哲郎)

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